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奨励賞

観光開発と環境保全に関する一考察:地域再構築の視点から

 

菊地直樹

 

観光開発が工業開発の中心から離れた周辺地域の振興という側面をもっていることは確かである。その一方で、経済的、政治的、社会的、文化的、環境的といった諸側面において、従来主流であった観光開発の問題点が指摘されている。近年模索されている「もうひとつの観光」には、自然環境や伝統文化を破壊してきた従来までの観光開発に対する反省が含意されている。
環境が問題化した現代社会においては、観光開発と自然環境との関係は常に問題にならざるをえない。重視しなければならないのは、環境保全の担い手として注目されている地域住民の視点である。歴史的にみれば、地域環境の管理主体は当該社会の住民であり、環境保全のためには、そこの自然と歴史的にかかわってきた人びとが、従来の生業の営みを再生させることによって、豊かな生活を送れることが重要である。観光開発は地域の再活性化の契機となりうる可能性をもっている。当該社会の住民の視点から、観光開発と環境保全との関係を考察し、観光開発のあり方を模索することが求められよう。
従来、観光は「文化」や「自然」の商品化を進め、観光化は伝統文化や自然環境を破壊させる、失わさせるというようにネガティブに語られてきた。けれども、このような語りでは、観光という世界的規模で展開される文脈のなかで自然や文化が再構築されるというダイナミズムや、地域住民の自律的、主体的、創造的な営みをとらえることはできない。これに対して、求められるのは、同じような変化を、外部の文化要素を貧欲に取り込み新しい文化が発生している状況として語ることである。このような語り方によって、観光化の過程で当該社会の住民が、そこの自然、文化、生活を再生させる自律的、主体的、創造的な営みを十分にとらえることができる。
観光開発において重視すべき理念は、地域住民の「自律性」と開発の「持続可能性」である。観光開発のあり方は、地域住民の「自律性−従属性」、開発の「持続可能性か否か」という軸から整理することができる。この整理軸をもちいるなら、過疎地域の特効薬とされたリゾート開発は、地域住民にとって従属的であり、持続することができない開発であるといえる。それに対して、「もうひとつの観光開発」では、当該社会の住民の主体的参加と環境・社会・文化への配慮といった持続可能性が理念として盛り込まれている。それは、当該社会の人びとだけでなく、観光客もともに参加するという「参加型観光」というあり方である。ここには都市と農村の新しい関係のあり方の一つが示されている。また、それぞれの地域に適した観光のあり方を当該社会の人びとと観光客がともに考えながら観光化をすすめる「適正観光」というあり方である。ここでは、地域の主体的、自律的な発展にとって不可欠な「知的資源」が観光資源であり、それゆえ当該社会の人びとは観光開発によって自らの地域に誇りをもちえるのである。
もうひとつの観光(たとえば、エコ・ツーリズム)は、観光と環境というグローバルな展開のなかで、地域を再構築する可能性をもった観光開発であるといえる。

 

 

 

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